製品が生まれるまで

開発ストーリー

世界一まで、<br>追究できる場所がある。
  • Story

世界一まで、
追究できる場所がある。

中国・インフレーター製造改善プロジェクト

OUTLINE

自動車のエアバッグに搭載されるインフレーター。ガスを発生させてエアバッグを開くための部品だ。その金属容器(月産約300万個以上)をつくっているのが中西金属工業の中国工場である。インフレーターは、言い換えるなら、命を守る部品。ものづくりの段階で少しの不安要素も発生させてはいけない。しかし最近、中国工場からとある懸念事項が報告された。金属の板をプレス加工機で凹型に成型するとき、金型の表面が傷み、製品にもキズが出てしまうのだ。中国技術スタッフでも原因を究明できずにいるなか、白羽の矢が立ったのが彼である。

成長のチャンスは突然に。

「中国に行ってくれないか」。あるとき、上司から不意に切り出されました。聞けば、インフレーターの製造問題を解決してほしいとの話。当時、別の製品の開発を担当していた私には、もちろんインフレーターの製品や工法の知識はありません。「なぜ私が?」と不思議に思ったのですが、続けて発した上司の言葉で疑問が解消されました。「先入観のないエンジニアのほうがフラットな目線で分析し、課題を突き止められるのではないかとキミを指名したんだ。さらには、今後NKCにとって重要な製品となるインフレーターを十分理解してほしい」と。そこまで期待されて、燃えないわけがありません。2017年4月、私はすぐに単身中国に飛びました。もちろん不安はありました。初めての中国。中国語でわかるのは「謝謝(シェイシェイ)」くらい。場所もものづくりの領域も、完全アウェーからのスタートでした。でも、それ以上に「こんな絶好の機会はない」と胸踊っていたのです。自分のエンジニア人生を振り返って、これからは現場のものづくりに触れることで、さらなる成長ができるとも感じていましたから。

中国に到着して、いざ工場へ。期待と決意を胸に構内へ入った私の目に飛び込んできたのは、ズラリと並ぶ最新鋭の加工機。寸分違わぬ精度でプレスしてつくられるインフレーター。スタッフの動きの正確さは想像以上で、驚きの連続でした。「ここまで徹底して管理されているのに、どうして?」一瞬、立ち向かう課題の大きさに不安を感じました。しかし、勝負はまだはじまっていません。「とにかく、まずはものづくりを理解するところからはじめよう。あらゆるデータを取ってみよう。何かが見えてくるかもしれない」と、ストップウォッチを片手にペンを走らせ、データをパソコンに蓄積しはじめました。

落ち込む暇があれば、1ミクロンでも前進せよ。

何個製造した時点で金型が破損したか。その理由は何か。ひたすら記録を取り、データを睨む。暗中模索の日々が3ヶ月間は続いたでしょうか。そんなある日、一筋の光が差し込んできました。油です。プレス加工をするとき、潤滑の役割を持たせるために金型と金属の双方の表面に油を塗布するのですが、それが隅々まで行き渡っていないことに気がつきました。塗布するタイミングを変えてみよう。油の通り道となる金型の口径を広げたらどうか。原因追究に活気づく現場。ミクロン単位の加工が求められる難しい作業も、改善スピードを重視して、中国チームだけで挑戦することにしました。少し削っては測定器を当てる。コツコツ積み重ね、やっとのことで図面通りの寸法へと成型。さあ、結果はいかに?…残念ながら、1回目のテストは失敗に終わりました。製品に付いたキズを見て、重苦しい空気が漂う工場内。メンバーが見せた落胆の表情。しかし、いつまでも落ち込んでいる暇はありません。推進役として皆を鼓舞し、すぐに結果の分析と改善策を練り直しました。

中々結果に結びつかない日々の中で、生まれたものもありました。国や文化、言葉を越えた中国メンバーとの絆です。友情の輪は広がり、プロジェクトとは関係のない製造スタッフが「何でも協力するからね」と手を差し伸べてくれることも。言葉はわからなくても、現地からの期待が膨らみ続けていることを実感できました。チームワークのおかげか、プロジェクトのスピードも加速。金型の寿命が、少しずつ伸びていったのです。「ゴールはもう少しだ」。そう手応えを感じていた2018年7月、会社から突然の帰国辞令。志半ばに中国を離れることに大きな失望を抱きましたが、それも束の間、配属先は基盤技術研究室だったからです。

日本から、中国を救ってみせる。

基盤技術研究室は、中西金属工業の歴史の次の1ページとなる、新技術の開発や応用研究に挑戦する機関です。もちろん今まで解決できずにいた問題を解決する研究も重要。研究テーマを決めるのに時間は掛かりませんでした。今、私は、インフレーターの工法について調査・研究を進めています。目的はもちろん、中国でやり残した問題を解決すること。油の研究は室内でもハイライトの一つになっています。最近では「油の量を増やすよりも、種類を変えると前進するかもしれない」など、数々の新しい兆しが見え始めてきました。試行錯誤の日々はこれからも続きそうですが、確信していることがあります。「この問題を解決するのは自分だ」ということです。海の向こうで起きているものづくりを解決すること。そして、エアバッグの安全性を進化させること。インフレーターは人々の命に直結する部品です。このものづくりがさらに進歩したら、世界中で交通事故から守れる人が増えます。もしかしたら、その志を汲み取って、会社は私に、基盤技術研究室への異動を言い渡したのかもしれません。やると決めたら失敗しようが、10年でも100年でも、納得いくまで追究できる。それが、世界一の技術を生み出す、中西金属工業のスタンスですから。

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